女28歳、婚活パーティー。
はじめて参加したのは24歳のときだった。
当時は“社会科見学”と吹いていたが、完全に適齢期に入ってしまった。
自虐的にクリスマスの日に行ったり、先輩と年収1,000万プレイヤーを見に行ったり、そんなバカげたことをする余裕も、もうない。
もっと真剣にやらなくては。
しかし、悲しいことにまともに女磨きをしたことがないツケが回る。
料理? 家事? 裁縫?
なにもできねぇ。
そんな私でも、自信を誇るアピールポイントを見つけたのだ。
それは
「生理でもイライラしない」
「生理でもイライラしない」
これだ。
男女に亀裂を生む問題、生理。
私は幸いにも、生理によって情緒不安定になったり、イライラすることはない。
このことを男友達に話すと「それ、めちゃくちゃ大事」「すごくいいと思う」といった称賛の声を複数いただいた。
それからというもの、自分の唯一のモテポイントとして温めていたのだ。
何もできない私に、神が授けてくれた希望。
ぜひ、婚活パーティーで試してみたい。
「生理でもイライラしない」女はモテるか?
迎えた婚活パーティー当日。2年ぶり人生5回目だ。
まずは受付。
会場に通されて
プロフィールを記入する。
自己紹介カードは比較的シンプルなタイプだった。
記入してみたが、項目が少ないので「生理でもイライラしない」がやたら目立つ。
これは目に入らないわけはないだろう。
少し気後れするくらいだ。
スタートまで数分時間があったので、自己紹介カードを渡す前にウォーミングアップ的に隣の男性と雑談。
何気なく参加の動機を聞くと「人肌が恋しい季節なので」と参加を決めたらしい。
しかも当日に申し込みをしたとか。今日の寒さが相当堪えたのだろうか。
「ではスタートです! 自己紹介カードを交換してください」
アナウンスがかかった。
「よろしくお願いします」と自己紹介カードを渡す。
さて、「生理でもイライラしない」という情報を目にした彼はどんな反応をしてくれるだろうか。
ドキドキしながら第一声を待つ。
「……えっと」
さっきまで自然に雑談していたのに、表情は強張り、空気が凍り付いている。まずい。
人肌恋しいと言っていた彼だが、余計寒くなってしまったようだ。
少しでも空気を温めようとこちらも話を振るが、最後まで生理には触れてくれなかった。
残念ながら渾身のモテアピールがダダ滑りしてしまった。
気合いを入れてオシャレしてきたのに誰も気づいてもらえないように虚しい。
しかし……まぁ当然といえば当然。こんな情報は扱いにくいのは私もわかる。想定内だ。
そう、「生理でイライラしない」は大胆なフィルタリングなのである。
いままでの婚活パーティーの参加経験からすると、出身地や住まい、趣味などの無難な会話したところでピンと来た試しがない。
なにより全く面白くないのだ。
多少突飛な話題を仕込むことで男性のキャラクターを見抜こう、という作戦なのである。
……という後付けを急遽でっち上げた。
次の男性に期待しよう。
男性2「お名前、珍しいですね~」
男性3「出身は北海道なんですか」
男性4「住んでるのは東京のどの辺ですか」
男性5「お仕事は何しているんですか」
男性6「出身は北海道なんですね~」
男性7「出身、北海道ですかー」
ぐぬぬ。どの男性も、多少話題性のある北海道という出身地トークを選択してくる。
たしかに、ギャルゲーでいえばその選択は正解だろう。
「出身地」「趣味」「家族」「生理」の4択で「生理」は完全に地雷。
藤崎詩織ちゃんが激怒して画面からいなくなってしまうのが目に見える。
でもこちとら生身の人間。
攻略本にはない勇気のある選択をしてほしい。
「これ、特徴的ですね」
8人目の人の良さそうな眼鏡をかけた男性が、自己紹介カードの生理の箇所を指してこう言った。
きたーーー!! やっと巡り合えた生理の話題に触れる男性!
うれしい!!
私「はい、そうなんです! こんな女性はどうですか?」
男性「いやーもう逆に…なんていうのかね……。変に気を遣わずにいいのかな、みたいな」
しかし、ツッコんでくれた割にはコメントに苦しんでいる……!
私は「急に下品な話をしてすみません」と思わず謝罪した。
だが、男性は「いえいえ、むしろ素直に言っていただいたほうが」と穏やかにフォローし、終了の合図がかかると「この話しかしてないわ」と笑って終わった。
すごい……。数分のやりとりなのに、とても親密になった気分だ。
なにより大胆なフィルターを乗り越えてくれたことに感激。
8人目の29番の男性!! とてもよかった!
しかし、この29番の男性がやはりレアケースだったようだ。
次々に男性と話していくが、また当たり障りのない会話が繰り返されてしまう。
気を遣われている気がしたので、タイミングを見計らって自分から生理に触れることにした。
男性「特技とかあるんですか」
私「んー特技というか・・・ここに書いてある通りですよ」
多少強引にシートの生理の箇所を指差した。
男性「あーえー、ア、あ、でも、イライラしないって、ダイ、大事ですもんね」
明らかに狼狽していた。
申し訳ない。
その後も隙をみては話を振っていく。
男性A「ああ~~、え~っと……いいですね(苦笑)」
男性B「母親がイライラするタイプでしたね~」
男性C「そんなに露骨にイライラした人に絡んだことはなくて……いままで気づいてなかっただけかもしれないですね」
男性D「いや、面白いです。どの女性か思い出すときに“生理の人”ってなりますね(笑)」
初対面の人と生理トークを、しかも何人も男性とすることに、非日常感が度を超えていた。
そして私はいつの間にか“男性の生理エピソード調査員”と化していた。
「生理のせいで困ったことないですか?」と聞くと、「あります! あります!」と、言わせてくれといわんばかりの26歳・教師の男性。
「大学時代に付き合ってた彼女がデート中ずっとイライラしてたんですよ。理由を聞くと『察してよ』ってことみたいで。なんだよ、わかんないよと思ってました」
これに対して「私なら、そんな思いはさせませんよ~」と胡散臭い商売のような返しをしてしまった。
男性は「すごいと思う、ポイント高い!」とリップサービスを弾ませ、もっと胡散臭くなった。
29歳・看護師の男性は、仕事柄、職場に女性が多い。
「看護師になって1年目のとき、なんで怒られているかわからないときがあったんですよ。そしたら先輩に『今日はダメな日なんだよ』と教えられて、はじめてわかりました。『察知できるようにならきゃダメだよ』と指導されましたね」
看護師でも生理のことは指導を受けなければわからないものなのか。
こりゃ普通の男性はもっとハードルが高いはずだ。
37歳・会社員の男性。
「お付き合いしていた女性で重いタイプの人には、マッサージしたりしましたね。あんまり絡まないように距離を取ったりとか」
マッサージするなんて優しい。なのに37歳まで結婚できてないのが謎である……。余計なお世話だが切なくなってしまった。
「男性は安心すると思います。さすが、モテそうですね!」
ついにモテるという最高評価をいただいた!
一瞬ガッツポーズをしたが、冷静に考えると傷のなめ合いのようにも思えてしまった。
開始から1時間ほどで、男性16人とのトークがすべて終わった。
いつもは「会話が無難過ぎて誰がいいか全くわからん」「ただの八方美人になってしまった」と反省していたが、今回は良くも悪くも自分をさらけ出していて充実感があった。
生理の話をしたのは16人中7人で、意外と約半数も話をしていた。
不快な思いをした人がいたら、この場を借りてお詫びしたい。
自ら生理の話をしてくれたのは29番の男性、たった一人だった。
生理でイライラしない女はマッチングできるのか!?
さて、ここからはマッチングタイムに入る。
今回の婚活パーティーはメッセージカードを贈るという方式らしい。
私は迷わず、自ら生理の話をしてくれた「29番」を記入。
もう一枚は決めかねて白紙でスタッフに提出した。
5分ほど経過し、回収したメッセージカードの仕分けを終えたスタッフが各番号の人へカードを配っていく。
私の番号は22番。
アピールポイントは「生理でもイライラしない」。
こんな女が果たしてメッセージカードがもらえるのだろうか……。
や、やったー!! メッセージカード、もらえた~!!
し・か・も 29番さんから!!
つまり両想い! やりました!
これは過去の婚活パーティーの経験からすると確実にイケるやつだわ!
枚数は2枚ゲット。ちなみにもう一枚は37歳男性からだった。
隣の25歳ミニスカ女子が3枚だったから、悪くない結果。
生理でもイライラしないアピールは婚活で通用することが証明された!
そして、お待ちかねの最終投票!
迷わず29番を記入して最終投票カードを提出。
しばしの待ち時間を挟み「おめでとうございます。今回は7組のカップルが誕生しました」とアナウンスがかかった。
順々に発表される中、「いや~私も意外と捨てたもんじゃないですね~」と余裕綽々で22番が呼ばれるのを待つ私。
「男性29番……」
くるぞくるぞ……22番
「女性19番!」
えええええーーーーー!!!
なんと、他の女子とマッチングしていたのだ。
完全に調子に乗っていた……。
「盛大な拍手でお送りください~!」
敗者の私に終了のアナウンスが虚しく響き渡った。
呆気にとられ、そしてちょっとイラっとしてる自分がいた。
いや、生理関係なくイライラしちゃダメじゃんか。
1人自分にツッコミを入れ、会場を去ったのだった。